5-3…無現実… (ごのさん むげんじつ)は、男闘呼組の7枚目のオリジナル・アルバム。1992年8月21日にBMGビクターから発売された。
男闘呼組の7thアルバム『5-3…無現実…』は、1992年8月21日にBMGビクターより発売された、3ヶ月連続アルバムリリースの最終作。オリコン週間11位を記録。メンバー自作曲が大半を占め、各々のソロ曲を多数収録。高橋一也作詞の歌詞には当時のレビューで「無意識過剰」との評も見られた。収録曲「THE FRONT」「目で見ちゃだめさ」は後年、Rockon Social Clubによりカバーされている。バンドのロック性を前面に出した、活動休止前の重要な作品の一つである。
概要
本作は、1992年6月発売の『5-1…非現実…』、同年7月発売の『5-2…再認識…』に続く、3ヶ月連続アルバムリリースの第3弾として、1992年8月21日にBMGビクターからリリースされた 。プロデュースは前2作に引き続きHIROMASA KAKIZAKIが担当した 。
オリコン週間アルバムチャートでは最高11位を獲得し、4週間にわたってチャートインした 。先行する『5-1…非現実…』が記録した9位(同チャートでのトップ10入り最終作)、『5-2…再認識…』の12位 と比較しても遜色ない成績であり、短期間に3作のアルバムをリリースするという異例の戦略の中で、バンドの根強い人気とファン層の支持を示している。このリリース戦略は、個々のアルバムのセールス最大化よりも、メンバーの旺盛な創作意欲と多作ぶりを提示することに重きを置いていた可能性が考えられるが、それでもなお11位という順位は、シリーズ最終作に対するファンの確かな購買行動を反映している。
当時の評価として、『CDジャーナル』のレビュー(HMVオンライン掲載)では、特に高橋一也(KAZUYA)の歌詞における「無意識過剰度」を森高千里に匹敵すると評し、収録曲「そろそろやっか」の内容に触れつつ、「勝手気ままに自らのロック道を行く様が美しい」と結んでいる 。この批評は、バンドがメンバー主導の楽曲制作を通じて、より個性的で既存のアイドル像にとらわれない、独自のロック表現を追求していたことを示唆している。特に歌詞の内容が踏み込んだものであったことは、彼らが確立したロックバンドとしてのアイデンティティと、アーティスティックな自由を重視する姿勢の表れと捉えることができる 。
アルバムタイトル『5-3…無現実…』は、『5-1…非現実…』、『5-2…再認識…』に続く連作の最終章としての意味合いを持つ 。一連のタイトル「非現実」→「再認識」→「無現実」は、現実からの離脱、自己の再評価、そして日常的な現実を超越した状態へと至る、ある種のテーマ的な進行を示唆しているようにも解釈できる。翌1993年にバンドが活動休止 することを踏まえると、「無現実」というタイトルは、活動休止を前にしたバンドが到達した、内省的あるいは創作的に解放された精神状態、外部からの影響とは一線を画した独自のクリエイティブな領域を象徴しているのかもしれない。
収録曲
全作詞・作曲:特記以外 KAZUYA / 全編曲:特記以外 OTOKOGUMI & ATSUSHI
- 今まさに その時
高橋一也ソロ - 旋律
作詞・作曲:KENICHI、編曲:KENICHI & HIS UNIT
岡本健一ソロ - 何処までも
作詞・作曲:KOYO
前田耕陽ソロ - TIME
作詞:KEITA、作曲:MARMALADE SKY
編曲:OTOKOGUMI & ATSUSHI & HIRAPON
成田昭次ソロ - 推察の最中で
作詞・作曲:KENICHI、編曲:KENICHI & HIS UNIT
岡本健一ソロ - HUMANITY
作詞・作曲:SHOJI
成田昭次ソロ - 奇跡のラピス
作曲:ATSUSHI、編曲:KAZUYA & ATSUSHI
高橋一也ソロ - THE FRONT
作詞:MASATO ODAKE、作曲:SHOJI
成田昭次ソロ
男闘呼組の後身バンド Rockon Social Club 名義でセルフカバーアルバム「2023」に新録で収録。(歌割り変更) - きっとそこから
高橋一也ソロ - 目で見ちゃだめさ
高橋一也ソロ
男闘呼組の後身バンド Rockon Social Club 名義でセルフカバーアルバム「2023」に新録で収録。(歌割り変更) - 全くもって白々しい
高橋一也ソロ - そろそろやっか
高橋一也ソロ - 静かな日本の夜
編曲:KAZUYA
高橋一也ソロ
収録曲に関する考察
本アルバムは、「TIME」(作詞:KEITA、作曲:MARMALADE SKY)、「奇跡のラピス」(作曲:ATSUSHI=田中厚)、「THE FRONT」(作詞:MASATO ODAKE)を除き、メンバー自身による作詞・作曲で構成されており、バンドの創作活動が円熟期にあったことを示している 。
特に高橋一也(KAZUYA)が作詞・作曲を手掛けた楽曲が多く、ソロボーカル曲も13曲中7曲を占めており、アルバム制作における彼の強いイニシアチブがうかがえる 。
メンバー全員(成田昭次、高橋一也、岡本健一、前田耕陽)にソロボーカル曲があり、それぞれの音楽的個性や志向が反映された多様な楽曲群となっている 。
「そろそろやっか」では、間奏部分で男闘呼組メンバー4人に加え、サポートミュージシャンを含めた全員の紹介とソロ演奏がフィーチャーされており、スタジオ録音ながらライブのような臨場感を演出するユニークな試みがなされている 。
アレンジは、多くがバンド自身とサポートキーボーディストの田中厚(ATSUSHI)との共同名義「OTOKOGUMI & ATSUSHI」となっている 。岡本健一(KENICHI)は自身のソロ曲で「KENICHI & HIS UNIT」としてアレンジを担当、高橋一也(KAZUYA)は最終トラック「静かな日本の夜」で単独でアレンジを手掛けている。また、「TIME」ではサポートドラマーの平山牧伸(HIRAPON)もアレンジクレジットに名を連ねている 。
シングルカットされた「THE FRONT」およびカップリングの「目で見ちゃだめさ」は、シングル版では編曲が「田中厚・男闘呼組」とクレジットされているが 、アルバム収録にあたり、「THE FRONT」は「OTOKOGUMI & ATSUSHI」、「目で見ちゃだめさ」は編曲者表記無し(シングル版とは異なるアレンジ)となっており、バージョン違いが存在する 。
音楽性および制作
本作の音楽性は、J-POP、ロック、ハード・ロックといったジャンルに分類される 。デビュー初期の楽曲が馬飼野康二(MARK DAVIS名義)や戸塚修といった外部作家によるものが中心であったのに対し 、1991年のシングル「ANGEL」以降、メンバー自作曲が増加し 、本作ではその傾向がさらに顕著になっている。これは、アイドルグループとしてデビューしながらも、一貫して本格派ロックバンドとしてのアイデンティティを追求してきた男闘呼組の音楽的進化を示すものである 。
アルバムの大半を占めるメンバーのソロ楽曲は、それぞれの音楽的ルーツや個性を反映しており、アルバム全体に多様性をもたらしている 。例えば、岡本健一が「HIS UNIT」と共にアレンジした「旋律」「推察の最中で」と、高橋一也が手掛けた楽曲群、あるいは成田昭次作曲の「THE FRONT」(美しいシンセとドラムから始まる、と評されている )では、サウンドアプローチや雰囲気が異なっていることが推察される。前述の『CDジャーナル』レビューが指摘する「ロック道」 という表現は、単なるポップスに留まらない、より骨太なロックサウンドや、メンバー主導ならではの実験的な要素が含まれていたことを示唆している。
制作面では、プロデューサーとしてHIROMASA KAKIZAKIがクレジットされている 。アレンジ面では、サポートメンバーであるキーボーディストの田中厚(ATSUSHI)とドラマーの平山牧伸(HIRAPON)が重要な役割を果たした。田中厚は、特に初期にキーボード演奏に不安があった前田耕陽をサポートする形で参加し、バンドサウンドに厚みを与えた。コンサートでは、バンド内にキーボード奏者が2人いることを不自然に見せないよう、あえて「ピアノ」と紹介されていたというエピソードもある 。彼は「OTOKOGUMI & ATSUSHI」として多くのアレンジに関与している 。平山牧伸(HIRAPON)も一部楽曲のアレンジに参加したほか 、男闘呼組の活動休止後は、大事MANブラザーズバンドや、成田昭次と共に結成したINORGANICなどでドラマーとして活動した 。
歌詞のテーマについては、メンバー自身が作詞を手掛けた楽曲が多いことから、よりパーソナルで内省的な内容が増えたと考えられる。高橋一也の歌詞に見られる「無意識過剰」 と評された表現や、アルバムタイトル「無現実」が示唆する非日常的な感覚、夢や内面世界といったテーマが、アルバム全体を覆う雰囲気の一つであった可能性がある。外部作家によるヒット曲とは異なり、商業的な計算よりもメンバー自身の芸術的衝動や当時の心境がストレートに反映された、ある意味で非常に純粋な表現が追求された作品と言えるだろう。これは、活動休止を目前にした時期に、バンドが自らの音楽性を強く打ち出そうとした意志の表れとも考えられる。
特記事項
3ヶ月連続リリース: 本作は『5-1…非現実…』『5-2…再認識…』に続く、3ヶ月連続アルバムリリースの最終作である 。
メンバーソロ中心の構成: アルバム収録曲の多くがメンバー個々のソロ名義となっており、特に高橋一也のソロ曲が多数を占める構成が特徴的である 。
ライブ的演出: 収録曲「そろそろやっか」には、スタジオ録音でありながら、ライブでのメンバー紹介のようなパートが含まれている 。
活動休止前の最終スタジオ作: 本作は、1993年6月末の活動休止 前にリリースされた最後のオリジナル・スタジオ・アルバムである(活動休止後の1993年8月21日にアルバム『ロクデナシ』が発売されているが、これは本作以前の音源も含む可能性がある )。
後年の活動との関連 (Rockon Social Club / NARITA THOMAS SIMPSON):
本作に収録された楽曲の一部は、2022年の男闘呼組再始動後の活動においても取り上げられている。
「THE FRONT」と「目で見ちゃだめさ」は、男闘呼組メンバーを中心とした後継バンド Rockon Social Club によって、2023年リリースのセルフカバーアルバム『2023』で新たにレコーディングされた 。
特に「THE FRONT」は、Rockon Social Club や、成田昭次が参加する NARITA THOMAS SIMPSON のライブ等で演奏される機会が多く、ファンによるカバー動画なども存在する 。
「目で見ちゃだめさ」も Rockon Social Club のライブで演奏されている記録がある 。
これらの楽曲が数十年を経て再び公式にカバー・演奏された事実は、単なる懐かしさだけでなく、楽曲自体が持つ魅力や、メンバーにとっての重要性が時代を超えて認められていることを示している。
特に成田作曲の「THE FRONT」、高橋作詞作曲の「目で見ちゃだめさ」が選ばれたことは、それぞれのメンバーシップを象徴する楽曲として、現在の活動においても特別な位置づけにあることを物語っている。これらの楽曲は、男闘呼組の最終期と再始動後の活動をつなぐ架け橋となっている。
参加ミュージシャン
前田耕陽 – ボーカル、キーボード
成田昭次 – ボーカル、ギター
高橋一也 – ボーカル、ベース
岡本健一 – ボーカル、ギター
平山牧伸 – ドラム
田中厚 – キーボード
福場潤 – ギター(2,5,12)
KOHJI TARUI – ベース(2,5,12)
本村隆充 – ドラム(2,5,12)